人を知る者は智(外よりも内を)

 十六章では江海を百谷(ひやつこく) の王として、「善(よ) く下(くだ) る--低い所にいて受けいれる--」からだと説明しているから、それに合わせると、江海のほうが「道」に当たることになる(蒋(しょう) 錫昌(せきしょう) の説) 。いまそれに従った。説順の違いは、わざと倒文にしたものとみておく。

33  人を知る者は智(外よりも内を)

他人のことがよくわかるのは知恵のはたらきであるが自分で自分のことがよくわかるのは、さらにすぐれた明智(めいち) である。他人にうち勝つのは力があるからだが、自分で自分にうち勝つのは、ほんとうの強さである。

満足することを知るのが、ほんとうの豊(ゆた)かさである。努力をして行ないつづけるのが、目的を果(は)たしていることである。自分の本来のありかたから離れないのが、永つづきのすることである。たとい死んでも、真実の「道」と一体になって滅びることのないのが、まことの長寿である。

人を知る者は智(ち) なり、自(みずか)ら知る者は明(めい)なり。人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し。

足(た) るを知る者は富(と)む。強めて行なう者は志(こころざし) 有り。其の所を失わざる者は久し。