将（まさ）に天下を取らんと

 将（まさ）に天下を取らんと欲してこれを為（な）すは、われその得（え）ざるを見るのみ。天下は神器、為すべからず、執（と）るべからず。為す者はこれを敗（やぶ）り、執る者はこれを失う。

凡（およ）そ物、或いは行き或いは随（したが）い、或いは歔（きよ）し或いは吹（ふ）き、或いは強く或いは羸（よわ）く、或いは培（やしな）（養）い或いはこぼつ。是（ここ）を以て聖人は、甚（じん）を去り、奢（しや）を去り、泰（たい）を去る。

将欲取天下而為之、吾見其不得已。天下神器、不可為也、不可執也。為者敗之、執者失之。

凡物或行或随、或歔或吹、或強或羸、或培或隳。是以聖人去甚、去奢、去泰。

天下の争奪をねらって野望に狂奔（きょうほん）する諸侯た、その現実を前にしてやはり無為（むい）自然であれと説く章である。河上公（かじょうこう）注本では無為章と名づけられている。天下のことまではいかなくとも、何ごとによらず、目標をたててその達成どころか、逆に亡びへの道となる。聖人は偏（かたよ）った執着をもたず、過剰な欲望をきりすてて、ひたすら対象のあるがままんいつき従って自然であるという。