- 讲师:刘萍萍 / 谢楠
- 课时:160h
- 价格 4580 元
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自分にそんな素質があるなんて,考えてもみなかった。
俺は一介のサラリーマンだった。
仕事に関しては,正直自分でも「うだつのあがらない」というコトバが悲しいくらいぴったりくる,というレベルでしかなかった。
俺が社内で最も彩りを放つのは,宴会の時だった。
俺は所謂「宴会部長」で,酒を飲むとテンションが上がり,ここを先途と騒ぎまくった。とはいえどんなに酔っても,吐いたり暴れたり潰れたりすることは皆無だったので,一緒に行った連中も安心して俺を「楽しんで」いた。
さて,そんな俺だったが,女性関係に関しては完全にダメだった。「明るくて楽しい人」は本来もてて然るべき筈なのだが,俺に関して言えば,ただ明るいだけが取り柄で,仕事も出来ない,顔も大したことない,言ってしまえばタダのバカ,という言い方も出来ないことはない,という状況だった。
「私,村上君のこと,好きよ」
かつて酒の席で,ある女に不意にそう言われたことがある。しかし,その「好き」は,明らかに「男として」の「好き」とは別のものだった。それはあくまで「Like」であって,「Love」には転化し得ないものだった。それは分かっていた。もし本当に「Love」という意味で俺を好きなら,そんなことを酒の席で言ったりはしないだろう。
基本的に俺はそういう人間だった。
みんなに好かれる。でも決して「愛される」ことはない。
さしずめ,サーカスで踊るピエロのような存在。
基本的に俺はそういう人間だった。
俺に彼女がいなくて,なおかつそういう存在を病的なまでに欲していることは,既に同期の男連中の中では知れ渡っていた。
最初の頃は,それさえも「ネタ」にしていた。何か女性と接する機会があるとなれば友人達はその話をこぞって聞こうとしたし,まして合コンなどあった日には,あたかも芸能人に群がるレポーターの如く,俺の一挙一動が注視の的となった。しかしそれは決まってうまくいかないのが常だったので,彼らは,
「バカだなあ,村上(おまえ)は」
そう言って笑ったものだった。
俺も一緒に笑っていた。
そのことで皆の話題の中心になることは,決して俺にとって気分の悪いことではなかった。むしろそれを積極的に「芸風」としてウケをとっていたふしがあった。
「末期」になると,それすらも難しくなっていた。笑っていられるような余裕はなくなった。
そもそも俺は,根本から「明るい」人間ではなかった。これは自覚していたが,俺は非常に気持ちが挫けやすい人間で,仕事上でもちょっとうまくいかなかったり上司に怒られたりすると,人のいないところで深く沈みこんでいた。そしてそんな時,悩みに入ると同時に,強烈な淋しさを感じた。誰もいない家に帰って一人で酒を飲みながら,誰かにそばにいて欲しい,支えて欲しいという気持ちに浸されていった。
「淋しさ」は,木が根っこから腐っていくように,徐々に徐々にジワジワと俺の心を侵していった。
土日に外出し,華やいだ街をブラブラすることは,俺の大きな,数少ない楽しみの一つだった。しかし,その頃はもうそれすらも楽しくなくなっていた。何せ,街はカップルだらけなのだ。楽しそうに若い一時を謳歌する彼らと,独りそれを横目に羨ましげな目をして,辛気臭いツラで眺めながら行き過ぎる俺。その時の俺は街で最も醜い,下等な人種に思えた。
その意識を殊更に肥大させる出来事があった。
その日は文字通りの五月晴れで,GWの最中という事もあり,絶好の「デート日和」だった。そんな日にのこのこ出て行った俺もうかつだったのだが…
いつものように死人のような顔をして歩いている俺の横を,一組のカップルが通った。
男の方に見覚えがあった。
彼は俺の親友で,俺と同様独り身をかこっていたはずの,社の同期のWだった。
女の方にも見覚えがあった。
彼女は一度,社の同期飲みに参加したアルバイトの娘で,女のメンバーの中で一番可愛い(と俺は思った。そしてそれは男達全員の共通認識だったはずだ)Dさんだった。あの飲み会にはWも参加していたが,二人がそれほど親しくしている様子はなかった。むしろ彼女とよく喋っていたのは他ならぬ俺自身で,彼女が好感を抱くとしたら,その対象は俺以外にあり得ないと思っていた。
なんとも言えない気持ちがせり上がってきた。
訳も知らず,目が涙目になっていた。
どうしたというのだろうか?その理由が,にわかには判らなかった。
DさんをWに取られた,その悔しさからか?
きっと,そうじゃなかった。
確かにあの飲み会の時こそ,俺と彼女はかなり親しく喋っていた。しかし,その後俺は全く彼女に対してアクションを起こしていなかったし,それどころか,その後俺の頭の中から彼女の存在はきれいさっぱり消え去っていたのだ。
だとすると…友人に先を越されたという事実そのものが悔しかった,もっと言うと,友人の幸せが妬ましかったのだろうか?
友人の中で最近彼女ができた,という奴はWだけじゃなかった。他の奴から「彼女ができた」という話を聞かされても,こんな気分にはならなかった。
「Wに対してだけ」,こんな気持ちになった。
どうしたというのだろう?
Wは俺と同じような境遇にあった。
明るいキャラクターの中に,暗さとか淋しさとかいうのを隠していて,心の支えになってくれる「彼女」という存在を強烈に求めていた。でもなかなかうまくいかなくて,それでもお互い頑張っていこうぜ,と慰め合い,励まし合うような関係.
そんなWに春が訪れた。本来なら友人の,しかも同じ苦しみを分かち合ってきた友人ならなおのこと,その幸せをともに喜んでやらなければならないはずだった。しかし今の俺はそれを素直に喜べない。それどころか,目に涙をためるような精神状態に陥っている。
俺がWを密かに「心の拠り所」にしてきた,そういう節は確かにあったかも知れない。Wは俺に似た性質を持っていて,顔(ルックス)は俺と同レベルかそれよりちょい上。気のいい男で結構誰からも好かれる,それなのに彼女ができない,という悩みを持っていたこの友人を,俺は密かに「こいつがダメだから,俺だって」というネガティブな意味で頼りにしてきたのかも知れない。悩みを共有する,と言えば聞こえはいいが,「同病相憐れむ」ことで心の傷を自ら慰め精神の均衡を守ってきたのかもしれない。
Wに彼女ができたことで,その「心のつっかえ棒」が外されてしまった。俺の今の,ある種平静を失った精神状態は,そこからきているのだろうか。
もしかするとあれじゃないか?
心の傷を舐め合っているうちに,お前の中にWに対する愛情のようなものが芽生えてきた,だからお前は,「DさんをWに取られた」ことでなく,逆に「WをDさんに取られた」ことに嫉妬しているんじゃないのかい?
それはある種同性愛的な気持ち。
お前にはそっちのケがあるんじゃないのかい?
ヤケクソのようにこんなバカなことを考えて,やっとのことで俺は笑いを取り戻した。
しかし,そんな明らかな冗談でさえも,俺を心から素直に笑わせるには足りなかった。
周りの同世代の友人たちが次々と恋人を作り,果ては結婚をして幸せになっていくのを尻目に,俺は相も変わらず独り身の,相当暗めの毎日を送っていた。
友人たちは誰一人として,こんな俺に手を差し伸べようとはしなかった。女を紹介することは勿論,合コンの声も掛からなくなっていた。
理由は判っていた。
友人たちは,俺が不幸なままでいたほうがよいのだ。俺は「万年彼女募集中の不幸な男」であることを「ネタ」にしていて,それが芸風だった。彼らはそんな俺を楽しんでいた。俺に彼女ができて幸せになったらもうそのネタで楽しめなくなるから,不幸なままにしておいた方が彼らには面白いのである。また,所詮合コンに俺を呼んだところで成果がないから無駄である,ということを彼らが知り始めたせいもあっただろう。
俺は別にそのことに関しては何も思うところはなかった。そんな芸風を作ったのは俺が悪いんだし,何も彼女を作るのに友人たちに助けを求めよう,すがろうなどという甘えた気持ちを持つのも癪に障った。
とはいえ,日々独り身の淋しさは容赦なく俺を襲い,そんな中でも人前では道化(ピエロ)として笑っていなければならなかった。
その無理から生じる精神の歪みは,結局のところ酒で矯正するしかなかった。独りで家に帰り,潰れて眠るまで独りで飲んでいた。
ある日のことだった。
いつものように独りで飲んでいた俺は,酒を切らしたのに気付いてコンビニに買いに出かけた。
そこは,薬や化粧品まで売っているかなり大きな店で,俺はお目当ての酒を確保した後,用もないのに店内を徘徊し,買う気もない本だの雑貨だのを物色していた。
その時,俺の目を何故か奇妙に魅いたのは,化粧品のエリアだった。
そういえば最近,女装する男とか,そこまでいかなくても女のような化粧をして売り出している男性歌手とかをテレビでよく見る。) E1
こないだそのテの某男性歌手が,「高校時代の写真」を紹介していたが,そこに写っていたのはどう考えても今の「美しい」彼とは似ても似つかない,冴えない,野暮ったい顔をしたイモ少年だった。
俺が化粧したら,どうなるんだろうか?
あの顔でああなれるなら,俺だって。
酔っていたこともあり,高揚した悪戯心に火が点いた。
俺はこともあろうに,酒と一緒に,化粧品一式を持ってレジに走っていた。
帰った俺は,酒そっちのけでなれぬ手つきで粉を塗りたくり,眉毛を書き,口紅を引いて「変身」を開始していた。
時計は零時を回っていたが,構いやしない。
どうせ明日は土曜で休みだ。
「変身」が殆ど完了した瞬間,一気に酔いが回ってきて,俺は何だか判らぬままに眠ってしまった。)
翌日目が覚めると,俺は日課の髭剃りと寝癖直しのために半ば無意識に鏡に向かった。
そこで俺は初めて,昨日やらかした馬鹿の結末を思い知ることになった。
鏡には,俺じゃない奴が写っていた。
きれいなのかそうじゃないのか,俺にはよく分からなかった。女に見ようと思えば見えるが,所々に「俺の名残」が残っている気もしないでもない。
人の目には,どう見えるのだろう?
そこまで考えて,俺は薄笑いを浮かべた。
髪をセットし髭をそり,一晩を経て崩れた化粧をちょちょいと直すと,俺は外に飛び出した。
TシャツにGパンというラフな格好は,お世辞にも人目を引くものではなかった。ただ,俺の体型の特徴として腰がくびれていて尻がでかかったので,それなりに格好はついていたのだろう。
来る途中道端で,姉ちゃんが道行く女性達に生理用品(ナプキン)の試供品を配っていた。そして彼女は,何の迷いもなくそれを俺にも手渡した。
女の目から見て,俺は「女」に見えるのだ。
この事実は,俺を勇気付け,有頂天にするのに充分だった。
次の瞬間だった。
見覚えのある二人組(カップル)。)
あの時と全く同じシチュエーションで,WとDさんが俺の目の前にいた。
Dさんは俺に気付かないらしかった。
しかし,Wは―その俺の親友は―
一瞬怪訝げな目で俺を見,次にフッと視線をそらして,逃げるように早道で通り過ぎて行った。
見られた…!!
责编:李亚林
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